JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

コラム

02_ベストプラクティスとベンチマーキング-現代のコーポレートガバナンス規整-

ベストプラクティスとは、世間が行っている最善と思われる実務をいう。最善と言ってもどういう意味で最善かと言うことが問題になるが、企業社会においては好業績を上げている企業の実務で多くの人から見て確かに合理的であると納得できる実務と考えれば良いであろう。ベンチマーキングとはベストプラクティスに至っていない企業が、ベスト・プラクティスをお手本として、自社の実務を再構築することをいう。

コーポレートガバナンス先進国の英米では、会社法のコーポレートガバナンス規整はシンプルであり、基本的には、株式会社においては、株主が株主総会で取締役を選任し、取締役が構成する取締役会が事業に関する意思決定を行いそれを執行すると定めているだけである。それに、ロンドン証券取引所やニューヨーク証券取引所が、多くの優良企業が行っている優れた実務つまりベストプラクティスを参考に、取引所の上場規則により独立取締役および指名・報酬・監査の三委員会からなるガバナンスシステムを推奨している。ここで重要なことは、取引所規則による強制ではなく、”Comply or Explain”方式で普遍化しようとしていることである。この方式の意義については別の機会に譲ることにして、以下では現代のコーポレートガバナンスの理念とベストプラクティスを整理する。

コーポレートガバナンスのベスト・プラクティスを詳述しているのがJCGRのコーポレートガバナンス原則であるが、ここではコーポレートガバナンスに関するJCGRの考え方の概略を紹介する。

コーポレートガバナンスとは

株式会社の前身は多額の資金を集め大規模な事業を行う会社である。会社法では、株式会社の他に合同会社、合名会社、合資会社が会社として定められている。小規模な事業を行うことが前提とされているこれら三社においては、出資者自身が経営者として会社を経営することが原則になっている。しかし、出資者つまり株主が多数いる株式会社においては、株主は株主総会で取締役を選任し、取締役が構成する取締役会に株式会社経営を委ねることになっている。ここで取締役は株主であることが要件とされていない。つまり、極言すると、株主は多額の資金を預けて赤の他人に会社経営を任せることを意味する。

他方、会社法は、会社の目的は営利であるとして、営利を確保するためにさまざまな仕組みを定めている。たとえば、監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、そして監査等委員会設置会社という3タイプの取締役会制度である。取締役が、取締役会の職務を通して営利を確実に行うように規整している。ここで営利とは、事業を行うことにより利益を上げ、それを出資者である株主に分配することである。株主にとっては、利益は多い方が良いので株主は、取締役会が利益の最大化を追求することを望む。ただし、事業にはリスクがともなうので、短期的な最大化でなく長期的な最大化が重要である。これを株主価値の最大化という。取締役会は、株主により長期的な観点からの利益最大化つまり株主価値の最大化が期待されていると考えなければならない。もし取締役会がその期待に応えなければ、次の株主総会で現在の取締役は選任されず、株主価値の最大化を目的とする取締役が選任されることになるであろう。

株主の期待は株主価値最大化を追求する取締役会であるが、その構成員である取締役は必ずしも株主ではない。開示制度により会社の重要な情報は株主に開示されることになっているが、取締役は会社の中にいて会社内の事情をよく知っているが、株主は会社の外にいるので、取締役や取締役会のすべてを知ることはできない。それゆえ、取締役会が株主にとって最善の経営をしてくれるとは限らない。会社法はそのことを前提として、いろいろな仕組みを定めている。それが上述の会社法のコーポレートガバナンス規整である。

コーポレートガバナンスのベストプラクティス

世界的なコーポレートガバナンス改革の流れは1990年代に始まるがその中で生まれてきたベストはプラクティス次のような構成になっている。

1.【独立取締役】取締役会を構成する取締役は独立取締役を過半の多数とする
2.取締役会は取締役とは別人の執行役員を選任する。執行役員の最上位をCEOと呼ぶ。
3. 取締役会は、株主の利益に重大な影響を及ぼす事業上の意思決定(業務意思決定)を行うが、業務執行はCEO以下の執行役員に委ねる。
4. 【三委員会】取締役会は、下部機関として、指名委員会、報酬委員会および監査委員会の三委員会を設置し権限を委譲する。
5. 【指名委員会】取締役会は、執行役員のトップであるCEO(最高経営責任者)以下の重要な(業務)執行役員を選任する。CEOは業務執行の責任者として、重要な意思決定やリーダーシップに責任を負うので、それに相応しい優秀な人材でなければならない。取締役会の構成員つまり取締役もそれに対応しうる優秀な人材でなければならない。そこで、CEO以下の経営陣から独立でかつ優秀な人材を取締役として選任するために、取締役会は独立取締役から構成される指名委員会を組織し、株主総会に提出する取締役候補者のリスト作成を委ねる。
6.【報酬委員会】CEO以下の執行役員として、CEO以下優秀な人材が選任されても、株主価値の最大化に向けて動機づけされていなければ、株主にとって何の意味もない。すべての執行役員に共通で、かつインセンティブとして有効なのは経済的価値のある報酬であるとして、経営陣一人ひとりに対してインセンティブ報酬を設計するのが現代のコーポレートガバナンスのベストプラクティスである。
7.【監査委員会】利益の追求、株主価値追求のプレッシャーが強いと、経営陣は不正経理を行ったり虚偽の財務報告をしたりして業績不振を隠蔽したり、あるいは自己の利益を詐取したりという不正を犯しがちである。また、経営陣でなくても、会社の現場のあちこちで不正が行われたり、過誤の実務が行われたりする。内部統制に気を配っていてもどうしてもこのような内部統制違反の事故は避けられない。そこで、内部統制が正規に行われているかを検証する内部監査が不可欠である。内部監査が正しく行われるためには、内部監査人として優秀でかつ独立な人材が確保されなければならない。内部監査人の独立性を検証するのが監査委員会の使命の一つである。他方、経営陣には株主およびその他のステークホルダーに対して財務情報の開示-ディスクロージャー-が強制されている。開示情報の適正性を確認するのが監査委員会の第二の使命である。さらに、財務情報に関しては、独立な外部監査人による会計監査が法
律によって求められている。外部監査人の独立性を検証するのが、監査委員会の第三の使命である。

独立取締役から構成される三委員会によって、優秀な経営陣を構成し、株主価値最大化のために株主価値創造を目指す機能が、現代のコーポレートガバナンスである。

若 杉 敬 明

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