JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

コラム

03_皆がバフェットの言うことを実践したならば

偉大な投資家ウォーレン・バフェットに資産運用のアドバイスを聞くと、90パーセントをS&P500(上場大型株500銘柄株価指数)と連動する投資信託で、残りは短期国債で良いと言う。今なら、低コストと流動性の点から、S&P500のETF(上場投資信託)を買っておけということになろう。では、もし多くの投資家がこういったETFによる運用を行うと、ガバナンスに重要な議決権にどのような影響がでるのだろうか。

近代ポートフォリオ理論の教える最適投資は、個別銘柄ではなく、「マーケット・ポートフォリオ(全てのリスク資産の時価総額加重平均ポートフォリオ)を持て」であるから、バフェット方式は理論的にもほぼ支持される。それだけではなく、現実にS&P500を凌駕するパファーマンスを中長期的に維持することは非常に困難なことが知られている。

ETFは我が国でも急速に普及している。ネット証券などでは、日経平均株価の騰落率の2倍として計算された指数に連動するレバレッジ型ETFが、日間どころではなく月間で売買代金ランキングトップを維持するまでになっている。いま、日経225に連動するETFを例に取ると、機関投資家は日経225銘柄の現物を購入して、日経225の動きを複製し、それをETFとして投資家に売ることができる。(実際には全銘柄を購入しなくても十分複製可能)この場合、機関投資家が議決権を持つことになるので、機関投資家のスチュワードシップが問題となる。一方、先に述べたレバレッジ型ETFは合成的であり、現物ではなく先物やデリバティブを組み合わせて株価指数自体とか、指数の逆の動きや増幅された動きを複製する。この場合、当然、のことながら議決権は誰も持たない。新たに、議決権を持たないプレーヤーが株価形成に参加する問題を考える必要がでてくるが、これは別の機会に議論したい。

現物複製型のETFのスチュワードシップが重要であった。機関投資家は、投資先企業とその事業環境を深く理解した上で、投資先企業との対話等により、その企業の持続的成長と顧客の利益を両立させることが必要となる。S&P500や日経225は大型銘柄であり情報量が多い上、こういったETFは基本的に銘柄の入れ替えは少なく、長期的保有となる。とはいえ、保有する現物銘柄企業との建設的な対話を相当数こなさなければならない勘定となる。しかし、ETFは低コストが重要な特徴であり、信託収入はごく低く、スチュワードシップに配分できる資源には限界がある。

さらに、全世界に投資できることで有名なバンガード社のトータル・ワールド・ストックETFにいたっては855銘柄、50ヶ国にわたるポートフォリオである(2019年7月1日現在)。全銘柄・全世界での十分な調査と対話が可能だとは思えないし、きめ細かい議決権行使もできないだろう。ましてや、世界的にみると、ETF機関投資家は、バンガード、ブラックロック、ステートストリートの3社寡占状況である。各社の顧客数は膨大で多様であるから、顧客利益の追求は容易ではない。最近では、ESG(環境・社会・ガバナンス)やサステイナビリティーまで考慮しろという要請が加わり、問題をさらに複雑化させている

今、できることは何だろうか。株主総会を資本主義的な金銭投票だと考えれば、機関投資家の寡占化は間接資本主義投票の世界という解釈が可能となる。投資家は売買によって、自由に機関投資家を選択し、選択した機関投資家を代表者として、ETFを保有する間、自らの議決権行使を信託しガバナンスを委託することを通じて間接的に経営参加をし、意思の反映・実現を図るわけである。となれば、さしずめ機関投資家は政党であり、ETFは代議士となろう。当然、政党(機関投資家)の公約やマニフェストとその実現の検証が重要となる。したがって、何にもまして、機関投資家の議決権行使に関するポリシーの透明性と、顧客利益向上の検証手段の充実が課題となる。

大林 守

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