JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

コラム

日本のコーポレートガバナンス改革:その3-アベノミクス後の改革-

アベノミクスのコーポレート・ガバナンス改革とその後

(1)アベノミクス

2012年12月26日に発足した第2次安倍政権において、安倍晋三首相は、が表明した「3本の矢」を柱とする経済政策を、レーガノミクス(Reaganomics)と呼ばれた故レーガン米国大統領の経済政策にあやかり、自らアベノミクス(Abenomics)と呼んだ。最大目標を経済回復と位置づけ、①第1の矢:大胆な金融政策(デフレ脱却を目指し、2%のインフレ目標が達成できるまで無期限の量的緩和を行うこと)、②第2の矢:機動的な財政出動(東日本大震災からの復興、安全性向上や地域活性化、再生医療の実用化支援などに充てるため、大規模な予算編成を行うこと)、③第3の矢:民間投資を喚起する成長戦略(成長産業や雇用の創出を目指し、各種規制緩和を行い、投資を誘引すること)という3本の矢によって、日本経済を立て直そうという計画であった。

(2)日本版スチュワードシップ・コード

2013年6月14日 第三の矢、成長戦略「日本再興戦略」を閣議決定し、その一環として「機関投資家が、対話を通じて企業の中長期的な成長を促すなど、受託者責任を果たすための原則(日本版スチュワードシップ・コード)について検討し、取りまとめる」ことを決めた。これを受けて金融庁は、2014年2月6日、『 「責任ある投資家」の諸原則』 を策定した。これは、機関投資家が投資先企業に持続的成長を促すことを求めるエンゲージメントにコミットすることを求める諸ルールで、当初から英国のスチュワードシップ・コードを模すことを目指したため、自ら「日本版スチュワードシップ・コード」と呼んだものである。

日本版スチュワードシップ・コードの7つの原則

1.機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。

2.機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。

3.機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。

4.機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。

5.機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。

6.機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。

7.機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。

(3)独立社外取締役導入の動き

2012 年の法制審議会の附帯決議を受けて、 2014 年 2 月 5 日、東京証券取引所は、上場会社に対し、独立取締役(取締役である独立役員)を少なくとも 1 名以上確保する努力義務を課す規則(有価証券上場規程)の改正を行い、2014 年 2 月 10 日から施行した。

(4)コーポレートガバナンス・コード策定へ

2014年9月 『有識者会議』が6月閣議決定の「日本再興戦略改訂2014」に盛り込まれた「コーポレートガバナンス・コード」の策定作業を開始した。「コードの策定にあたっては、東証のコーポレート・ガバナンスに関する既存のルール・ガイダンス等や『OECDのコーポレート・ガバナンス原則』を踏まえ、我が国企業等の実情等にも沿い、国際的にも評価が得られるものとする」とされていたもので、東証と金融庁が事務局になって策定作業を進めた。

(5)改正会社法:監査等委員会設置会社の導入

2015年5月1日 ①監査等委員会設置会社の導入、②委員会設置会社の指名委員会等設置会社への改称、③社外取締役選任を実質義務付け等が盛り込まれた改正会社法が施行された。

★会社法の改正は2014年6月20日に成立した。法務省だよりNovember 2014は改正の趣旨を次のように説明している。

1.近時,経済のグローバル化が進展する中,取締役に対する監督の在り方を中心に,コーポレート・ガバナンスの強化を図るべきであるとの指摘がされるようになりました。また,親子会社に関する規律の整備の必要性も,会社法制定以前から指摘されていた課題でした。

2.これらの指摘等を踏まえて,コーポレート・ガバナンスの強化及び親子会社に関する規律等の整備等を図るために,会社法の改正がされました。

この改正により,日本企業に対する内外の投資家からの信頼が高まることとなり,日本企業に対する投資が促進され,ひいては,日本経済の成長に大きく寄与するものと期待されています。http://www.moj.go.jp/KANBOU/KOHOSHI/no47/2.html

改正の主な内容は次の通りである。
1. コーポレート・ガバナンスの強化
(1) 社外取締役の機能の活用
① 監査等委員会設置会社制度の創設
② 社外取締役等の要件の厳格化
③ 社外取締役を置くことが相当でない理由の説明
(2) 会計監査人の独立性の強化
2. 親子会社に関する規律の整備
・多重代表訴訟制度の創設*
・組織再編の差止請求制度の拡充
・詐害的会社分割によって害される債権者の保護規定の新設
*多重株主代表訴訟とは「親会社株主が、子会社または孫会社に代わって、子会社または孫会社の損害賠償請求権を行使し、子会社または孫会社の取締役の責任を追及する訴訟」をいう

(6)コーポレートガバナンス・コード            

 上場会社の自律的な対応により実効的なガバナンスを実現することを求めるコーポレートガバナンス・コードの策定を進めてきた金融庁・東証が2015年3月5日、有識者会議の原案を公表した。
 2015年6月1日 「有識者会議」が取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード原案」を受けて、東京証券取引所は、「コーポレートガバナンス・コード」を当取引所の有価証券上場規程の別添として定めるとともに、関連する上場制度の整備を行い、適用を開始した。ここでは、現代の資本市場規整の標準的なスタイルである、ソフトローと呼ばれる“Comply or Explain”方式を採用し、コーポレートガバナンス・コード準拠表明制度と称されている。
コーポレートガバナンス・コードは次の5つの基本原則で構成されている。
基本原則1 コードは株主の権利・平等性の確保
基本原則2 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
基本原則3 「適切な情報開示と透明性の確保
基本原則4 取締役会等の責務
基本原則5 株主との対話
5つの基本原則の下には合計で31個の原則と42個の補助原則が示されている。

(7)二つのコードの改定の動き

 スチュワードシップ・コードもコーポレートガバナンス・コードも、当初から約2年置きに定期的に改定されることが定められていた。

2017年5月29日 スチュワードシップの改訂
 2020年3月24日 再改訂
2018年6月1日 コーポレートガバナンス・コードの改訂
 2021年6月 再改訂

(8)会社法の一部を改正する法律(2019年12月11日公布)

  2021年3月1日、法務省が懸案としてきた社外取締役の設置義務が施行された。監査役会設置会社(公開会社かつ大会社に限る)であり、かつ有価証券報告書の提出会社(いわゆる上場会社)の場合 社外取締役を置かなければならないことであった。これによりすべての公開かつ大会社において社外取締役の設置が義務義務化された。ただし、会社法には、世界標準である独立取締役の規定も概念もない。

以上

 

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