JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

コラム

日本のコーポレートガバナンス改革:取締役会選択制

2014年会社法改正以降の公開大会社のガバナンス体制

 会社法の公開大会社はガバナンスの中枢機関として取締役会を設置しなければならないが、その体制は監査役会設置会社、指名委員会等設置会社あるいは監査等委員会設置会社のいずれかを任意に選択することができる。また、体制の選択はいかなる変更も可能である。

1.取締役会の職務
①株主総会は取締役を選任する
②取締役は取締役会を通して機能する
③取締役会は会社代表を決定し業務執行を委ねる
-必要に応じて会社の職制として(業務)執行役員を選定する
④取締役会は業務に関する意思決定を行う
-業務とは事業遂行により営利を追求すること
-意思決定とは重要な投資や資本調達に関する決定等
⑤取締役会は業務執行役員の業務執行および他の職務の執行を監督する
-監督:営利に向けて経営の適正化を図るため、業務執行の体制およびその妥当性を確認すること

2.監査役会設置会社
ー伝統的な取締役会システム
ー株主総会で取締役と監査役が選任される
  ・取締役会・監査役会が設置される

ー取締役は取締役会に出席して
  ・代表取締役を選定する
  ・業務に関する意思決定を行う
ー取締役会は業務執行を代表取締役・業務執行取締役に委任
  ・代表取締役・業務執行取締役の業務執行状況を監督
ー取締役会は取締役の職務執行を(相互)監督
ー監査役は取締役の職務遂行を監査

3.指名委員会等設置会社
ー取締役会は執行役を選任し、執行役に業務執行を委任する
ー取締役会は、指名、報酬、監査の三委員会を設置し、執行役の職務を監督する
  ・委員会の構成は取締役3名以上で過半数が社外取締役
    >>指名:株主総会に提出する取締役の選任や解任に関する議案の内容を決定する権限
    >>報酬:取締役や執行役が受ける個人別の報酬の内容を決定する権限
    >>監査:①取締役・執行役の職務執行の監査、②株主総会に提出する会計監査人の選任・解任・不再任の議案内容の決定、③計算書類のレビュー等

4.監査等委員会設置会社制度:創設の目的

 会社法改正(2014年6月24日成立、2015年5月1日施行)で創設された取締役会体制である。

-法務省の意図
  a.業務執行をしない社外取締役が監督機能を果たすことによって取締役会の監督機能を充実させる意図
  b.そのために次のような規整を置いた
    ◆監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、次の事項につき、監査等委員会の意見を述べることができる
      >>監査等委員以外の取締役の選任、解任又は辞任
        ・指名委員会の機能に対応
      >>監査等委員以外の取締役の報酬等
        ・報酬委員会の機能に対応

5.社外取締役を置いていない場合の理由の開示制度
監査等委員会設置会社導入のもう一つの改正ポイント
-監査役会設置会社に対する規制
  ・有価証券報告書を提出しなければならない会社(典型的には上場会社)が社外取締役を置いていない場合
  ・事業報告での開示事項として
    >>当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない
      ⇨ 監査等委員会設置会社になれば不要
  ◆会社法は、直接的には社外取締役の選任を義務づけることはしないで、社外取締役を置いていない場合には理由開示を求めている。⇨ Comply or Explain

6.監査等委員会設置会社の仕組み

-株主総会は、
  ・「監査等委員である取締役」(任期2年)と
  ・「それ以外の取締役」(任期1年)、を区別して選任する

-監査等委員会は、監査等委員である取締役(以下監査等委員)3名以上で組織され過半数は社外取締役でなければならない
  ・監査等委員は、その会社もしくは子会社の業務執行取締役もしくは支配人その他の使用人等を兼ねてはならない
-監査等委員会設置会社において業務を執行するのは
  ・代表取締役または業務執行取締役(監査役会設置会社と同じ)
 
 ・執行役は置かない(監査役会設置会社と同じ)
―監査等委員会は、監査等委員の選任議案の提出について同意権を持つ(同意権は監査役会設置会社の監査役と同じ)
  ・監査等委員は、監査等委員の選任等に関して意見を述べることができる
  ・監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員以外の取締役の選任等について、監査等委員会の意見を述べることができる(指名機能の代替)
―各監査等委員は、株主総会において、監査等委員の報酬等について意見を述べることができる。また、監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会において、監査等委員以外の取締役の報酬等について、監査等委員会の意見を述べることができる(報酬機能の代替)

◆監査等委員会設置会社制度の特徴:その1
―監査役会設置会社制度との比較においては
  ・監査役に代わって監査等委員会が取締役の職務執行に対する監査を行う機関構成、他方
-指名委員会等設置会社制度との比較においては

・委員会型ではあるものの指名委員会及び報酬委員会を設置する必要がない機関構成

監査等委員会設置会社制度は、監査役会設置会社制度と指名委員会等設置会社制度との中間に位置すると言える

◆監査等委員会設置会社制度の特徴:その2

―監査等委員
  ・選解任及び報酬に関しては、監査役会設置会社における監査役に近い制度設計
    >>定款又は株主総会決議で、取締役の報酬とは区別して定める
  ・監査委員(指名委員会等設置会社)と同様に常勤者は不要
    >>監査役会設置会社の監査役は、各自が監査権限を有する独任制
★監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社では、委員会が監査権限を有し、委員である取締役は内部監査部門を通じて監査活動(組織監査)を行うことが想定されている

7.監査役・監査等委員・監査委員の比較:3取締役会の監査機能の比較

-監査役(任期:4年)
  ・選任:株主総会の普通決議
  ・解任:株主総会の特別決議
  ・選任議案に対する同意:監査役会の同意が必要
-監査等委員(任期:2年)
  ・選任:株主総会の普通決議により監査等委員として選任
  ・解任:株主総会の特別決議(2/3以上)
  ・選任議案に対する同意:監査等委員会の同意が必要
-監査委員(任期:1年)
  ・選任:株主総会の普通決議により取締役として選任され、その後、取締役会の決議により監査委員として選定される
  ・解任:株主総会の普通決議 (過半数)
  ・選任議案に対する同意:他の機関の同意は不要

(若杉 敬明)

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