JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

コラム

取締役会の責任

はじめに

 一口に取締役と言っても、わが国には監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、および監査等委員会設置会社の三つのガバナンス体制があり、それぞれで取締役の責任と権限とが異なる。指名委員会等設置会社の取締役は経営監督(ガバナンス)が基本職務であり業務執行は行わないので比較的単純である。以下では、監査役会設置会社および監査等委員会設置会社の業務執行取締役の権限と責任についてせいりしてみたい。

法令や定款に違反する行為により会社に損害を与えた場合、その行為を行った取締役は、会社に対し損害賠償責任を負うことになります。このほか、取締役会の決議に賛成した取締役についてもその行為をなしたものとみなされますので、この取締役も実行した取締役とともに連帯して責任を負うことになります。
 会社の実質的所有者である株主で構成される株主総会では、会社の基本的な事項についての意思決定がなされるのみです。したがって会社の業務執行については、取締役を選任し、取締役全員によって構成される取締役会が業務執行の意思決定をするとされています。そして、その意思決定にもとづいた業務執行自体は、取締役会において選任された代表取締役により行われます。

このように、各取締役個人としては、業務執行自体の意思決定、業務執行行為自体を行う権限を有せず、合議体の構成員として業務執行の意思決定をするとともに、他の取締役の職務の執行について監督する権限を有するにすぎません。
 取締役は、会社との関係においては、委任・準委任の関係にありますので、会社に対し善良な管理者としての注意義務を負っています。善良な管理者としての注意義務(善管注意義務といわれます。)というのは、取締役が職務を行うにあたり取締役としての職業、地位、知職を基準として通常要求される注意を尽くして職務を行う必要があるというものです

また、取締役は、法令および定款の定めならびに株主総会の決議を遵守して会社のために忠実にその職務を執行する義務を負っています。この会社のために職務を忠実に執行すべき義務というのが、取締役の忠実義務といわれるものです。

この善管注意義務と忠実義務の関係については、2つの義務を別個の義務ととらえる考え方もありますが、忠実義務は善管注意義務を具体化し、株式会社において一層明確にするために注意的に規定したものであり、善管注意義務とは別個の義務を規定したものではなく、内容的に差異があるものではないとするのが判例、多教説です。
 取締役が、これらの義務に違反し会社に損害を与えた場合、債務不履行にあたることになります。しかし、このような民法における一般原則である債務不履行だけでは、会社の業務執行の意思決定に関与し、大きな権限を有する取締役の会社に対する責任問題が処理しきれない面が生じます。このため、商法は、取締役が会社に対して負う責任を特別に規定しています。

商法266条1項5号は、取締役が法令または定款に違反する行為をなしたときは、会社がこうむった損害額につき賠償する責めに任すと規定しています。この法令には、取締役の善管注意義務、忠実義務を定める規定も含まれると解されています。したがって、取締役が善管注意義務、忠実義務に違反し、会社に損害を与えたときは、取締役は、商法266条1項5号の法令、定款に違反する行為により会社に損害を与えたものとされ、会社に対し損害賠償責任を負うことになります。さらに、その行為が数名の取締役によってなされた場合には、その数名の取締役が連帯して責任を負うことになります。

取締役の善管注意義務とは

会社法上、株式会社の取締役は会社から経営の委任を受けていると考えられており、その関係には、民法の委任に関する規定が適用される(会社法330条)

民法は、委任を受けた者は「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」(民法644条)と定めており、これを「善管注意義務」という

一方、会社法でも「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない」(会社法355条)と定められている

これは「忠実義務」と呼ばれているが、善管注意義務とは別個の義務を定めたものではないと解されている

「会社経営に携わる者として、その会社の規模、業種等のもとで通常期待される程度の注意義務」であり、単なる従業員とは異なり、取締役としての職務や地位に値するだけの高度な注意力が要求される

他の取締役を監視する義務

何かトラブルがあった場合にしばしば問題になるのは、取締役が他の取締役の不適切な行為を監視・監督しなかったという、いわゆる「監視義務」の違反である

取締役には、他の取締役を監視し、不適切な行為があれば、取締役会を自ら招集し、業務執行の適正化を図るという義務もある

この監視義務は、取締役会の議題になった事項だけでなく、会社の業務一般が対象となる

経営判断の原則(1)

なすべきことをしなかったという、いわゆる「消極ミス」とは異なり、取締役が経営上の判断を誤ったために損失を招いたという「積極ミス」についても、善管注意義務違反が問題となる
 この場合は、通常の経営者としての知見や経験を基準として、事実の認識や行為の選択に著しい不合理があったといえるかどうかがポイントになります。これは、企業経営に関する判断は、流動的な状況で行わざるを得ず、ある程度のリスクも伴うものであることから、取締役の裁量権がある程度認められるべきだという考え方による

この考え方は「経営判断の原則」と呼ばれている

つまり、取締役は、会社の利益のために行動する限り、仮にその行動が失敗したとしても、その失敗自体が善管注意義務違反となるわけではない

ただし、その行動は合理的な根拠と判断に基づいていることが必要である

合理的というのは、その業界における通常の経営者のレベルを基準にして、ということであるから、それなりの高度な専門知識や能力が前提とされている

そのほかの義務

取締役には他にも、自分や第三者のために会社の事業と同様の商取引を行ってはいけない「競業避止義務」や、自分や第三者のために取引して会社に不利益をもたらしてはいけない「利益相反取引禁止義務」も課せられている

これらの義務違反には損害賠償責任が伴う

取締役の競合行為

会社法では、取締役が自己または第三者のために事業の部類に属する取引をしようとするときは、株式会社の承認を得なくてはならないと定めている(会社法356条1項1号)。取締役は、会社のノウハウ、顧客その他の会社の重要情報を入手しやすい地位にあることから、その競業行為については、法的な規制が定められている

【競業の範囲】

競業にあたるのは、会社の「事業の部類に属する取引」である。「事業の部類に属する」かどうかは、目的物(商品・サービスの種類)及び市場(場所・流通段階など)が競合するかどうかで決まる

会社が現実に行っている取引ばかりでなく、これから行おうとしている取引も含まれる。その判断にあたっては、形式的に定款に記載されているかどうかよりも、実際に進出を予定し着手しているかどうかが重要です。

【参考】取締役の刑事責任

取締役の持つ広範な権限と社会的な影響力の大きさゆえに、会社の取締役であるために刑事罰の対象となる行為が存在する

こうした行為を故意に行ってはいけないことは当然であるが、不注意から間違って犯罪に手を染めることのないように、会社法をはじめとする取締役についての刑罰法規は取締役にとって必須の知識である

  • 「取締役の特別背任罪」
  • 「会社財産を危うくする罪」

インサイダー取引未然防止のための対策

  1. 適時適切な開示

投資判断に重要な影響を及ぼす会社情報の適時開示に積極的に対応すること。すなわち会社情報のディスクロージャーは、インサイダー取引の「公表」の要件との関わりで、大切になる。

重要事実が取締役会等で意思決定されても、公表が遅れると、それだけインサイダー取引の危険性が大きくなる

  1. 適切な情報の管理

内部情報が他に漏れたり不正に利用されたりすることのないよう社内体制を整備することが必要である

情報管理体制の整備は、会社のコンプライアンス上も非常に大切であるが、重要な情報が特定の部門以外に広がらないようにする体制を構築することは、インサイダー取引に関与する可能性のある会社関係者をできるだけ少なくするという意味で、インサイダー取引の未然防止に役立つ

page top

サインイン

新規登録

パスワードをリセット

ユーザー名またはメールアドレスを入力してください。新規パスワードを発行するためのリンクをメールで送ります。