JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

コラム

日本の監査役制度とその変遷

日本コーポレートガバナンス研究所
理事長 若杉敬明

第一部 日本の監査役制度-ドイツの監査役制度と英米流の取締役会制度の狭間で-

 監査役の制度を定めたのは1890年(明治23年)制定のいわゆる旧商法である。商法とは、商人の営業、商行為その他商事について定めた日本の法律であるが、ドイツ人の法学者・経済学者であるヘルマン・ロエスエルにより起草された。 それに対して民法はフランスの法典を手本として定められていたため、商法と民法との整合性が議論になり、1899年(明治32年) 新商法公布された。

 旧商法においては、株式会社の運営体制として、基本的意思決定を行う株主総会、業務執行を行う取締役、監督を行う監査役の3機関置かれた。取締役は必ず3人以上必要とされ、かつ、取締役会の設置が義務づけられていた。監査役就任の資格は株主に限られ、監査役は取締役の業務監視権および株主総会招集権からなる経営監督権限と会計監査権限をもつ。監査役の人数については定めがない。なお、1899年新商法では、総会招集権限と取締役の会社代表訴権および取締役の自己取引(利益相反取引)の承認権が新たに付与され、権限が強化された。

 旧商法および新商法で監査役に与えられた権限は、経営監督権限と会計監査権限である。監査とは督&検からの造語であると言われる。監督とは経営者に対して事前に指図することであり、検査とは経営に対する事後の検査である。英語では、auditは通常会計検査を指し、internal auditというと内部で行われる会計検査を言い、外部の公認会計士が行う会計検査はexternal auditあるいは単にauditという。なお、最近の米国では、internal audit部門は経営検査も行うようになっている。

 1950年(昭和25年)英米流の取締役会制度が導入され、経営監督は取締役会による自己監査が原則になり、監査役の職務は会計監査が基本となった。監査役の権限は大きく縮小されたわけである。しかし、証券取引法(現在の金融商品取引法)との整合性を図るために、監査役に再度業務監査権限が付与された。これにより、業務執行に対する取締役会の監督権限と監査役の監督権限という二重性が固定され現在に至っている。しかし、取締役会の自己監査が形骸化していったことから、その後、粉飾決算や企業不祥事などが社会的な問題になる度に、監査役の権限強化と地位強化(独立性の確保)とでガバナンス問題の解決が図られてきた。明治時代に定められたドイツ流のガバナンスシステムが生き続けていたのである。新しいガバナンスシステムの導入には、委員会等設置会社の導入を決めた2002年(平成14年)商法改正を待たなければならなかった。

 このように日本語の監査という語は旧商法以来1950年商法改正まで、「経営監督+会計検査」を意味していた。米国では、事前の経営監督は「取締役」が行い、事後の会計検査はinternal auditorおよびinternal auditorが行う。現在の米国の取締役会にはaudit committeeが必置機関であるが、その役割は、事後の検査人であるinternal auditorおよびexternal auditorの独立性を検証することであり、会計検査を行うことではない。話が込み入って来たが、本来の”audit”は明治以来日本で制度化されてきた監査役の「監査」とは異なり、経営者(CEO)の部下であるinternal auditorあるいは外部のexternal auditorが行う事後的な会計検査である。

 日本の監査役が米国の会社を訪問し名刺交換するとき、肩書きのAuditorをから低く見られる傾向があり、監査役はプライドを傷つけられることがよくあったと言われる。日本の監査役は株主総会で選ばれる役員でむしろ社長より上の立場であるのに、auditorがCEOの部下である米国の会社ではそう見てくれないので、監査役のプライドが痛く傷つけられるのである。米国には日本のような監査役制度はないのである。audit=監査ではないのである。もっとも日本の会社のシステムが知られるようになってきて、最近は正しく理解してくれるアメリカ人もいるようである。

 1950年の商法改正で米英の取締役会制度を導入したときに、監査役の制度を整理すべきであったのに、そのまま残したために紛らわしいことになってなってしまった。近年のコーポレートガバナンス改革の流れは経営監督は取締役の役割である。取締役会にaudit committeeがあるが、その役割はauditorsの独立性を事後的に検証することである。自ら会計検査をするわけではない(それゆえaudit committeeが行う財務諸表のチェックはauditとは呼ばずにreviewと呼ばれるのである)。

 日本の監査役は、経営監督権限と会計監査権限とを与えられてスタートした。異質な二つ機能を担った日本独特の制度であると言われている。監査役の監査はauditと翻訳してはいけない、あるいはauditを監査とは翻訳してはいけないのである。

第二部 監査役会制度の変遷

1890年旧商法制定(明治23年)

・株式会社においては、基本的意思決定を行う株主総会、業務執行を行う取締役、監督を行う監査役の3機関置かれた。取締役は必ず3人以上必要とされ、かつ、取締役会の設置が義務づけられていた。

監査役就任の資格は株主に限られ、監査役は取締役の業務監視権および株主総会招集権からなる経営監督権限と会計監査権限をもつ。監査役の人数については定めがない。

1890年商法公布(明治32年)

・会社代表訴権および取締役の自己取引(利益相関取引)の承認権が新たに付与され、権限が強化された。

1938年(昭和13年)改正商法

・監査役の資格について、取締役及び支配人の兼任禁止が加えられた。また、取締役員に欠員が生じた場合にはその職務を代行する事が規定された。

 1950年改正(昭和25年)

英米法的な取締役会制度導入にともない監査役の権限が縮小され、業務監査権限は取締役に委譲され会計監査に限定された。他方、株主には次のような権限が付与され株主の権限が強化された。・株主代表訴訟提起権、違法行為差止請求権、会計帳簿閲覧請求権、株式買取請求権など

★ 1965年(昭和40年)、山陽特殊製鋼倒産事件(倒産により粉飾決算が発覚)が発生し取締役会による経営監督の機能不全が露呈されたことから、商法が改正された。

1974年改正(昭和49年)

・再度、監査役に業務監査機能が付与された(小会社を除く)。このことから取締役会と監査役の二つの経営監督機関が並立することになった。ともに株主総会で選任された取締役と監査役とが重複した機能を持ち、世界でも類を見ない独自の制度である。ただし、監査特例法により資本金1億円以下の小会社においては、監査役は従来通り会計検査機能のみである。大会社においては、会計監査人による会計監査を義務づけられ、監査役の会計監査と会計監査人の会計監査とが併存することになった。また、解任時の意見陳述権の付与、任期延長などにより監査役の地位強化が図られた。

1974年 商法特例法(監査特例法)制定

・大会社においては監査役の他に会計監査人(公認会計士または監査法人)による会計監査を義務づけられたが、小会社においては監査役の権限は会計監査権限に限定された(業務監査権限はない)。

 1976年(昭和51年)戦後最大の疑獄事件「ロッキード事件」が発覚した。米ロッキード社から日本の政界などへ流れた資金をめぐり、田中角栄元首相ら政治家、丸紅、全日空の幹部ら計16人が受託収賄、贈賄などの罪で起訴された。さらに1978年(昭和53年)には、ダグラス・グラマン事件等の会社が不正支出をしていた不祥事が明るみに出された結果、このような不正を会社が自治的に防止できるような措置を講ずるため商法改正がなされた。

1981年(昭和56年)改正

・監査役の地位強化が図られ、会計監査人の株主総会による選任、監査費用請求などの権限が付与された。かつ、監査役制度の充実が図られ、商法特例法上の大会社に複数監査役制度および常勤監査役制度が導入された。なお、商法特例法の大会社の範囲が拡大された(資本額のほかに、負債総額も基準にする)。

★ バブル崩壊後の1991年(平成3年)6月に発覚した証券・金融不祥事件(証券会社の一部の投資家に対する損失補填、金融機関の偽造の預金証書を担保とする融資)を契機として、監査制度を充実する改正がなされた。

1993年改正(平成5年)

・監査役の地位強化(監査役任期の伸張2年→3年)がなされるとともに、監査役会制度が法定化され、3名以上の監査役設置を強制し、大会社においては1名以上を社外監査役とすることが義務づけられた(中・小会社では1人以上)。

2001年改正(平成13年)施行は2005年(平成17年)5月1日から

・議員立法による改正が行われ、再度、監査役の地位強化が図られた。➀監査役任期の3年から4年への伸張 ➁・取締役会への出席および意見陳述義務の明文化、③辞任時の意見陳述権、④選任における監査役会の同意権・提案権等が付与された。また、商法特例上の大会社には、社外監査役の人数の拡充(1人→半数以上)が義務づけられるとともに、社外監査役の社外性が厳格化された。

2002年改正(平成14年)

あらたに委員会等設置会社の導入し、監査役設置会社との選択制にした。

委員会等設置会社においては、取締役会の中に社外取締役が過半数を占める三委員会(監査委員会、指名委員会、報酬委員会)の設置が義務づけられた。ただし、監査役に代わり監査委員会が設置されるので、監査役を置くことはできない。➁業務執行を担当する執行役を置き、取締役会決議事項について決定権限を大幅に執行役に委任した。③三委員会+執行役の体制の導入により、取締役会の監督と執行役の業務執行を分離する現代的な取締役会のガバナンス体制の設置を可能にした。

★世界の潮流である三委員会設置会社への移行を目指したが、経済界の理解が得られず旧来からの監査役会設置会社との選択制になった。その代わり、指名委員会等設置会社以外の大会社には、取締役の職務執行が法令及び定款に適合すること、その他株式会社の業務の適正を確保するための体制の構築など業務の適正を確保するための体制を設けることが義務付けられた。しかし、経済界の反対等が強く肝心なガバナンスの観点からはいわゆる「ざる法」で、取締役が執行役を兼ねることができることから、大部分の会社で取締役は業務執行取締役で、ガバナンスとマネジメントの分離は、事実上、形骸化されている

2005年会社法制定(平成17年)

・資本金1円株式会社が認められるなど、新会社法は、これまでの常識を大きく変える制度変更が加えられている。ガバナンス関係では委員会等設置会社が委員会設置会社に改称された。

監査役制度についても次のような改正が行われた。(以下「監査役制度の変遷2」より一部抜粋)

➀ 監査役は、原則として会社の定款の定めによって任意に設置される機関となった。監査役および監査役会を設置する会社を監査役会設置会社と呼ぶ。

➁ 監査役を設置する会社のうち、特に会計業務以外の業務活動(購買・生産・物流・販売など)、および組織・制度などに対して監査権限を有する監査役が設置されている会社のことを、監査役設置会社という。

・監査役の任期:1993年(平成5年)改正商法273条1項では、監査役の任期は、就任後3年内の最終の決算期に関する定時総会の終結までとした。監査役の任期を、それまでの2年から3年に伸長することでその分地位が安定すると共に、任期2年のままの取締役からの横滑りも牽制される効果があるとされた。

③ 監査役員数と社外監査役 1993年(平成5年)改正商法特例法18条1項では、大会社の監査役の体制を強化する ため、監査役は3人以上で、そのうち1人以上は、その就任の前5年間会社またはその子会社の取締役または支配人その他の使用人でなかった者(社外 監査役の定義)でなければならないものとした。

④ 会計監査人の人事については基本的に取締役が関与していたが、経営監視機能の強化のため、会計監査人の人事についても相当部分、監査役が関与することになった。

⑤ 監査役会の運営手続も定められた。監査役会の招集権者、招集通知、全員同意の場合の招集手続の省略など取締役会の場合に準ずるものとした。監査役会の決議は監査役の過半数をもって行うが、同法6条の2に定める会計監査人の解任決議は全員一致の決議となる。会社に対する責任・第三者に対する責任等との関係において、監査役の行為が監査役会の決議によってなされたときは、その決議に賛成した監査役はその行為をなしたものとみなされ、議事録に異議をとどめなかった監査役もその決議に賛成したものと推定する旨の条項が置かれた。監査役会が設けられたことにより、監査報告書も監査役会が作成することとした。等々

★会社法には2つの意味がある。一つは固有の法律である「会社法」を指す。もう一つは「実質的意義の会社法」で会社の利害関係者の利害調整を行う法律のことを指す。「実質的意義の会社法」には、会社法施行規則、会社計算規則、電子公告規則、社債株式等振替法、担保付社債信託法、商業登記法などが含まれる。

その他にも会社にかかわる法律は多数あり、取引においては民法や商法、税制に関しては法人税法、また競争政策上会社に制約を課す私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)など多岐に渡る。

「実質的意義の会社法」が持つ特徴は、利害関係者の利害調整を主な目的として会社の組織、運営について定めたルールという点である。ここで言う「利害関係者」は主に株主と会社債権者を指す。

日本では従来、固有の法律としての「会社法」は存在しなかった。その代りに会社に関する法の総称(「実質的意義の会社法」)として会社法の用語が用いられていた。(ウィキペディア

2015年会社法改正(平成26年)

-株式会社に、第三の機関設計である監査等委員会設置会社が新たに導入された。監査役会に代わって過半数の社外取締役を含む取締役3名以上で構成される監査等委員会が、取締役の職務執行の組織的監査を担う。この機関設計の導入にともない、従来の委員会設置会社は指名委員会等設置会社と改名された。監査等委員会設置会社においては、他の取締役(任期1年)とは別に、任期2年の監査等委員会委員である取締役が設置される。なお、監査役を設置することはできない。

➀ 監査等委員は監査役と同等の権限を持ち、業務監査と会計監査を行う。

➁ 監査等委員については、独任制はとらず、報告徴収権・業務等調査権・子会社調査権は、監査等委員会が指名する監査等委員が行使する。

③ 監査役と異なり、監査等委員に常勤者は要求されていない。

選任:監査役は株主総会で選任され、取締役とは独立の存在であるが、監査等委員は取締役会において取締役の中から選定される。

業務執行:監査等委員は業務執行を行わない。当該会社の執行役・子会社の執行取締役の兼務が禁止されており、監査役同様、業務執行は行わない。

社外性:監査役は半数以上が社外監査役であり、監査等委員に関しては過半数が社外取締役でなければならない。いずれも、社外者は2人以上いればよい。

会計監査人の選解任:監査役は株主総会議案に対して同意権を持つのに対して、監査等委員は議案の決定権を有する。監査役も実質的な決定権を持つが、決定権を持つ監査委員会の方が議案決定に際して主体的である。

調査権:監査役は独任制であり、監査役会があるにかかわらず、個々の監査役が監査権限を行使できるが、監査等委員は限定されている。つまり、執行役の違法行為またはそのおそれに対し、取締役会への報告、差し止め請求権を単独で行えるが(緊急の場合の例外)、それ以外の権限は監査委員会に指名された監査等委員のみが行使できる。

実査:監査役は実査を行う。監査役は、取締役・使用人を兼務できないので、業務執行部門である内部統制システム(監査部、検査部等)を指揮することができず、これを活用できない。監査等委員および監査等委員会は、実査を行うことは予定されていないので、内部統制部門を用いて監査を行う。

まとめ:監査等委員会には監査役とほぼ同様の権限が認められているが、監査等委員会として組織的な監査が予定されていることと、監査等委員は取締役であることから自ずと権限に差異がある。

以上

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