JCGR 日本コーポレートガバナンス研究所

コラム

日本のコーポレートガバナンス改革:その2-21世紀の改革-

【論考】

日本コーポレートガバナンス研究所 理事長 若杉 敬明

第一部 コーポレートガバナンス改革始動

 日本経済は1980年代繁栄を享受したが、80年代半ば以降バブル化した。1990年に入ると、1月4日の株価暴落とともにバブルが破裂し、「失われた10年、20年、そして30年」と言われる低迷期に突入した。それでも2001年の議員立法による商法改正など、いたずらに監査役の地位強化が図られた。しかし、2002年商法は、三つの取締役会委員会を持つモニタリング・モデルの取締役会を導入した。

2002年改正(平成14年)
新たに委員会等設置会社の導入し、監査役設置会社との選択制にした。
委員会等設置会社においては、取締役会の中に社外取締役が過半数を占める三委員会(監査委員会、指名委員会、報酬委員会)の設置が義務づけられた。ただし、監査役に代わり監査委員会が設置されるので、監査役を置くことはできない。➁業務執行を担当する執行役を置き、取締役会決議事項について決定権限を大幅に執行役に委任した。③三委員会+執行役の体制の導入により、取締役会の監督と執行役の業務執行を分離する現代的な取締役会のガバナンス体制の設置を可能にした。

★ 世界の潮流である三委員会設置会社への移行を目指したが、経済界の理解が得られず旧来からの監査役会設置会社との選択制になった。その代わり、指名委員会等設置会社以外の大会社には、取締役の職務執行が法令及び定款に適合すること、その他株式会社の業務の適正を確保するための体制の構築など業務の適正を確保するための体制を設けることが義務付けられた。しかし、経済界の反対等が強く肝心のガバナンスの観点からはいわゆる「ざる法」で、取締役が執行役を兼任できることとしたため、大部分の会社で取締役は業務執行取締役で、ガバナンスとマネジメントの分離は、事実上、形骸化していた。

★ しかし、グローバリゼーションと技術革新で大競争時代が振興する中、商法の再構築が避けられず、これまで商法の一部として機能していた「会社の部」が切り離され、2005年独立の会社法が成立し翌年施行された。

2005年会社法制定(平成17年)
・資本金1円株式会社が認められるなど、新会社法は、これまでの常識を大きく変える制度変更が加えられている。ガバナンス関係では委員会等設置会社が委員会設置会社に改称された。
監査役制度についても次のような改正が行われた。(以下「監査役制度の変遷2」より一部抜粋)
➀ 監査役は、原則として会社の定款の定めによって任意に設置される機関となった。監査役および監査役会を設置する会社を監査役会設置会社と呼ぶ。
➁ 監査役を設置する会社のうち、特に会計業務以外の業務活動(購買・生産・物流・販売など)、および組織・制度などに対して監査権限を有する監査役が設置されている会社のことを、監査役設置会社という。
・監査役の任期:1993年(平成5年)改正商法273条1項では、監査役の任期は、就任後3年内の最終の決算期に関する定時総会の終結までとした。監査役の任期を、それまでの2年から3年に伸長することでその分地位が安定すると共に、任期2年のままの取締役からの横滑りも牽制される効果があるとされた。
③ 監査役員数と社外監査役 1993年(平成5年)改正商法特例法18条1項では、大会社の監査役の体制を強化する ため、監査役は3人以上で、そのうち1人以上は、その就任の前5年間会社またはその子会社の取締役または支配人その他の使用人でなかった者(社外 監査役の定義)でなければならないものとした。
④ 会計監査人の人事については基本的に取締役が関与していたが、経営監視機能の強化のため、会計監査人の人事についても相当部分、監査役が関与することになった。
⑤ 監査役会の運営手続も定められた。監査役会の招集権者、招集通知、全員同意の場合の招集手続の省略など取締役会の場合に準ずるものとした。監査役会の決議は監査役の過半数をもって行うが、同法6条の2に定める会計監査人の解任決議は全員一致の決議となる。会社に対する責任・第三者に対する責任等との関係において、監査役の行為が監査役会の決議によってなされたときは、その決議に賛成した監査役はその行為をなしたものとみなされ、議事録に異議をとどめなかった監査役もその決議に賛成したものと推定する旨の条項が置かれた。監査役会が設けられたことにより、監査報告書も監査役会が作成することとした。等々

★会社法には2つの意味がある。一つは固有の法律である「会社法」を指す。もう一つは「実質的意義の会社法」で会社の利害関係者の利害調整を行う法律のことを指す。「実質的意義の会社法」には、会社法施行規則、会社計算規則、電子公告規則、社債株式等振替法、担保付社債信託法、商業登記法などが含まれる。
その他にも会社にかかわる法律は多数あり、取引においては民法や商法、税制に関しては法人税法、また競争政策上会社に制約を課す私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)など多岐に渡る。
「実質的意義の会社法」が持つ特徴は、利害関係者の利害調整を主な目的として会社の組織、運営について定めたルールという点である。ここで言う「利害関係者」は主に株主と会社債権者を指す。
日本では従来、固有の法律としての「会社法」は存在しなかった。その代りに会社に関する法の総称(「実質的意義の会社法」)として会社法の用語が用いられていた。(ウィキペディア

 

2015年会社法改正(平成26年)
-株式会社に、第三の機関設計である監査等委員会設置会社が新たに導入された。監査役会に代わって過半数の社外取締役を含む取締役3名以上で構成される監査等委員会が、取締役の職務執行の組織的監査を担う。この機関設計の導入にともない、従来の委員会設置会社は指名委員会等設置会社と改名された。監査等委員会設置会社においては、他の取締役(任期1年)とは別に、任期2年の監査等委員会委員である取締役が設置される。なお、監査役を設置することはできない。
➀ 監査等委員は監査役と同等の権限を持ち、業務監査と会計監査を行う。
➁ 監査等委員については、独任制はとらず、報告徴収権・業務等調査権・子会社調査権は、監査等委員会が指名する監査等委員が行使する。
③ 監査役と異なり、監査等委員に常勤者は要求されていない。
選任:監査役は株主総会で選任され、取締役とは独立の存在であるが、監査等委員は取締役会において取締役の中から選定される。
業務執行:監査等委員は業務執行を行わない。当該会社の執行役・子会社の執行取締役の兼務が禁止されており、監査役同様、業務執行は行わない。
社外性:監査役は半数以上が社外監査役であり、監査等委員に関しては過半数が社外取締役でなければならない。いずれも、社外者は2人以上いればよい。
会計監査人の選解任:監査役は株主総会議案に対して同意権を持つのに対して、監査等委員は議案の決定権を有する。監査役も実質的な決定権を持つが、決定権を持つ監査委員会の方が議案決定に際して主体的である。
調査権:監査役は独任制であり、監査役会があるにかかわらず、個々の監査役が監査権限を行使できるが、監査等委員は限定されている。つまり、執行役の違法行為またはそのおそれに対し、取締役会への報告、差し止め請求権を単独で行えるが(緊急の場合の例外)、それ以外の権限は監査委員会に指名された監査等委員のみが行使できる。
実査:監査役は実査を行う。監査役は、取締役・使用人を兼務できないので、業務執行部門である内部統制システム(監査部、検査部等)を指揮することができず、これを活用できない。監査等委員および監査等委員会は、実査を行うことは予定されていないので、内部統制部門を用いて監査を行う。
まとめ:監査等委員会には監査役とほぼ同様の権限が認められているが、監査等委員会として組織的な監査が予定されていることと、監査等委員は取締役であることから自ずと権限に差異がある。

これにより、上場会社のコーポレートガバナンス体制は、(1)取締役会と監査役会をもつ伝統的な監査役会設置会社、(2)取締役会と指名、報酬、監査の三委員会を持つ指名委員会等設置会社(委員会設置会社を改称)、および(3)取締役会と監査等委員会をもつ監査等委員会設置会社(監査等委員会は、フレーバー的に擬似的な指名委員会機能をもつ)の選択制になった。

2019年会社法改正法会社法の一部を改正する法律」が12月4日に成立し12月11日公布された。

①株主総会資料の電子提供 ②株主提案権:提案できる議案数の制限 ③取締役の報酬等(株式報酬等を含む):個人別決定方針等 ④補償契約(会社補償)、役員等賠償責任保険契約(D&O保険)等に関する規定を新設 ⑤社外取締役設置義務化 ⑥業務執行の社外取締役への委託 ⑦社債管理補助者の設置を可能とする ⑧株式交付(自社株式等を対価とするTOBなど)制度を新設。 2021年3月施行(①⑧は2022年施行予定)

★この改正により、すべての取締役会に社外取締役の設置義務が課されることになった。

◆ 2012年末に、第2次安倍内閣が成立し、レーガン大統領のレーガノミクスに倣ってアベノミクスを標榜し、日本再興戦略の一環としてガバナンス改革を次々と打ち出した。これは監査役制度の強化に終始した過去のガバナンス改革とは一線を画すものであった。2014年金融庁が日本版スチュワードシップ・コードを策定し、翌2015年、会社法は監査等委員会設置会社を導入、直後に東証はコーポレートガバナンス・コードを公表した。二つのコードは法律ではないので、Comply or Explainというイギリス流のソフトローの形を採っているが、政府は3年置きに改訂を繰り返すという力の入れようである。ここで奇妙なことは、スチュワードシップ・コードは日本版と称しているようにシェアホルダー主義の英国版スチュワードシップ・コードをお手本としているのに対して、コーポレートガバナンス・コードはステークホルダー主義のOECD原則のコピーであることである。

アベノミクスのコーポレートガバナンス改革

アベノミクスの実質はソフトローと呼ばれる以下の二つのコードによって進められている。

1.スチュワードシップ・コード

2.コーポレートガバナンス・コード

→ 日本のコーポレートガバナンス改革:その3に続く。

(2021/12/01;未完)

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