SDGsをめぐって-その3:持続可能な開発目標、日本政府の取組

2015年9月、ニューヨーク国連本部おいて「国連持続可能な開発サミット」が開催され、150を超える加盟国首脳の参加のもと、その成果文書として。「われわれの世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されると、日本政府はその実施に向けまず国内の基盤整備に取り組んだ。2016年5月に総理大臣を本部長,官房長官,外務大臣を副本部長とし,全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」を設置し,国内実施と国際協力の両面で率先して取り組む体制を整えた。さらに,この本部の下で,行政,民間セクター,NGO・NPO,有識者,国際機関,各種団体等を含む幅広いステークホルダーによって構成される「SDGs推進円卓会議」における対話を経て,同年12月,今後の日本の取組の指針となる「SDGs実施指針」を決定した。
実施方針は、「持続可能で強靱,そして誰一人取り残さない、経済、社会、環境の統合的向上が実現された未来への先駆者を目指す」というビジョンのもと、:①普遍性、②包摂性、③参画型、④統合性、⑤透明性と説明責任という実施原則を定めている。さらに①あらゆる人々の活躍の推進、②健康・長寿の達成、③成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション、④持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備、⑤省・再生可能エネルギー、気候変動対策、循環型社会、⑥生物多様性、森林、海洋等の環境の保全、⑦平和と安全・安心社会の実現、⑧SDGs実施推進の体制と手段という8つの優先課題を掲げ、その課題を達成するための具体的施策を列挙している。
2018年12月の第6回推進本部会合では、日本は,豊かで活力のある「誰一人取り残さない」社会を実現するため,一人ひとりの保護と能力強化に焦点を当てた「人間の安全保障」の理念に基づき,世界の「国づくり」と「人づくり」に貢献していくとした『SDGsアクションプラン2019』を決定した。また、6月末の2019年G20大阪サミットを控えた第7回推進本部会合では,『拡大版SDGsアクションプラン2019』を決定した。
拡大版アクションプランのポイントは、G20議長国として、日本は豊かで活力ある「誰一人取り残さない」社会を実現するため、一人ひとりの保護と能力強化に焦点を当てた「人間の安全保障」の理念に基づき、世界の「国づくり」と「人づくり」に貢献しSDGsの力強い担い手である日本の姿を国際社会に示し、日本がSDGsの世界のリーダーを目指すことを宣言していることである。

SDGs主要課題におけるG20議長国・日本のリーダーシップ
① 質の高いインフラ投資に関するG20原則
  ・インフラの開放性、透明性、債務持続可能性といった要素を重視
② 防災:仙台防災イニシャティブ
  ・防災分野における国際協力の必要性
③ 海洋プラティックごみ対策に関する日本のイニシャティブ
  ・廃棄物管理、海洋ゴミ回収、イノベーションに関する能力強化
④ 気候変動・エネルギー:パリ協定長期戦略のポイント
  ・イノベーションの推進、グリーン・ファイナンスの推進、ビジネス主導の国際展開、国際協力
⑤ 女性:SDGsの担い手としての女性のエンパワーメント
  ・国際女性会議WAW、女性・平和・安全保障(WPS)分野における国際協力、国際協力における女子教育推進、途上国における女性企業家支援、国内の女性活躍推進、G20議長国として女性に関する諸議論を主導
⑥ 保健:国際保健分野における日本のリーダーシップ
  ・保健は人間の安全保障の具現化において重要な分野。保健分野への投資は人々の活力を高め、国の発展に寄与し、社会の安定化につながる
⑦ 教育:持続可能な未来実現のための「教育✕イノベーション」イニシャティブ
  ・イノベーションを生み出すための教育、イノベーションによる教育

以上は拡大版アクションプランの一部に過ぎないが、SDGsの実現には企業の関与が不可欠であることが如実に示されている。SDGsの達成は損得を抜きにした公共事業である。しかも、日本政府は、SDGsに関わる諸事業に対して、省庁横断的に全省庁に対して予算を割り当てている。そのような予算を利用することにより企業はより効率的に事業を行うことができる。このことは、株主始め投資家にとっても絶好の価値創造の機会であることを示している。このことについては、次回、考察することにしたい。

若杉敬明

 

SDGsをめぐって-その2:責任投資原則ESGとSDGs-

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、2015年9月28日にPRI(責任投資原則)に署名した。GPIFは次のように述べている。「ESGという言葉が知られるようになったのは、2006年に国連のアナン事務総長(当時)が機関投資家に対し、ESGを投資プロセスに組み入れる「責任投資原則」(PRI、Principles for Responsible Investment)を提唱したことがきっかけです。2008年のリーマン・ショック後に資本市場で短期的な利益追求に対する批判が高まったこともPRIの署名機関増加につながり、2019年3月末時点で2400近い年金基金や運用会社などがPRIに署名しています。このうち年金基金などアセットオーナーの署名は432にのぼり、その運用資産残高の合計は20兆ドル以上(約2200兆円)に達しました。
ESG投資に似た概念としては、社会的責任投資(SRI、Socially Responsible Investment)という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。定義の違いについては様々な説明の仕方がありますが、SRIがまずは倫理的な価値観を重視することが多いとされるのに対し、ESG投資は長期的にリスク調整後のリターンを改善する効果があるとされています。このためGPIFにとってのESG投資は、「年金事業の運営の安定に資するよう、専ら被保険者の利益のため、長期的な観点から、年金財政上必要な利回りを最低限のリスクで確保することを目標とする」というGPIFの投資原則に沿い、受託者責任を果たすことができる投資手法であると考えています。」
国連が提案するESGが長期的な投資を行う機関投資家の投資原則として認められつつあるところに、新たに国連がSDGsを発表した。両者にはどのような関係にあるのであろうか。世界の解決すべき課題を環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3つの観点から考えようというのがESG投資である。そこにSDGsという普遍的あるいは先進国も途上国も抱えている問題が提起された。その問題を解決するためには国レベルの公的な活動でなければできないことも多いが、私的な企業が事業としてできることが多数含まれている。持続可能な世界の実現は営利を目的とする私企業によっても支えられている。資本の観点から言えば、SDGsの世界は事業機会に溢れている。先読みをする投資家がSDGsの実現を加速しようとしていると言える。
世界全体でみるとESG投資は2500兆円を超えていると言われる。これだけの金額がすでに持続可能な世界や社会に貢献する企業に投資されている、ということである。日本では2016年5月20日に安倍総理が本部長、すべての国務大臣がメンバーになり、第1回「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部会合」が開催された。それ以降も毎年2回同じメンバーで開催されていて、その過程で日本はSDGsに関わることが決定されている。
2回目の会合で日本が関わるSDGsの内容が明らかにされた。
「持続可能な開発目標(SDGs)の実施指針を本日決定しました。日本は、これまで、持続可能な経済・社会づくりのため、国際社会のモデルとなるような優れた実績を積み重ねてきています。
今回決定した指針には、経済、社会、環境の分野における8つの優先課題と140の施策を盛り込みました。この指針で、世界に範を示し、持続可能な世界に向けて、国内実施と国際協力の両面で国際社会をリードしてまいります。
一点目は、国際保健の推進です。国際保健機関に対し、総額約4億ドルの支援を行う予定です。
二点目は、難民問題への対応です。今般、新たに5億ドル規模の支援を行います。
三点目は、『女性の輝く社会』の実現です。2018年までに総額約30億ドル以上の取組を行います。
来年7月には、国連で我が国の取組の報告も行う予定です。関係閣僚においては、今後も本実施指針の下、緊密に連携し、政府一丸で取り組むようお願いします。」
日本政府は、SDGs関連に9億ドルの支援、30億ドルの予算をつぎ込むことを決めた。つまり日本円にして合計約4000億円を投資すると言っている。これは企業の事業機会を生み、そのことはそれだけの投資が必要であることを意味している。投資家にとってこれ以上のチャンスはないと言えよう。SDGsに関して政府主導でいろいろな取り組みが行われています。次回は、2019年年初に発表した「SDGsアクションプラン2019」に沿って代表的な取り組みを見てみよう。

若杉敬明

SDGsをめぐって-その1:持続可能な開発目標とは-

最近新聞やテレビでSDGs(エスディージーズ)という言葉をよく耳にする。Sustainable Development Goalsの略語である。2000年に国連のサミットで採択された「MDGs(エムディージーズ/ミレニアム開発目標)」が2015年に達成期限を迎えたことを受けて、MDGsに代わる新たな世界の目標として登場したのがSDGsである。2015年9月に国連で開かれたサミットの中で世界のリーダーによって決められた国際社会共通の目標である。
それまでのMDGsは以下の8つのゴールを掲げていた。
ゴール1:極度の貧困と飢餓の撲滅
ゴール2:初等教育の完全普及の達成
ゴール3:ジェンダー平等推進と女性の地位向上
ゴール4:乳幼児死亡率の削減
ゴール5:妊産婦の健康の改善
ゴール6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止
ゴール7:環境の持続可能性確保
ゴール8:開発のためのグローバルなパートナーシップの推進 (外務省ホームページより)
それに対して、SDGsの「持続可能な開発目標」とは「17の目標」と「169のターゲット(具体目標)」で構成されている。まず、17の目標とは以下の通りである。
目標1:貧困をなくそう
目標2:飢餓をゼロに
目標3:すべての人に健康と福祉を
目標4:質の高い教育をみんなに
目標5:ジェンダー平等を実現しよう
目標6:安全な水とトイレを世界中に
目標7:エネルギーをみんなにそしてきれいに
目標8:働きがいも経済成長も
目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう
目標10:人や国の不平等をなくそう
目標11:住み続けられるまちづくりを
目標12:つくる責任つかう責任
目標13:気候変動に具体的な対策を
目標14:海の豊かさも守ろう
目標15:陸の豊かさも守ろう
目標16:平和と公正をすべての人に
目標17:パートナーシップで目標を達成しよう
(外務省「持続可能な開発目標」(SDGs)について
 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/about_sdgs_summary.pdf)
「極度の貧困と飢餓の撲滅」「HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止」などが織り込まれていることからも分かるように、MDGsは先進国による途上国の支援を中心とする内容であった。それに対してSDGsには先進国が抱える社会的な問題も含まれている。もちろん国によって重視すべき目標は異なるであろうが、世界の各国が解決すべき問題が掲げられている。ただし、番号が上がるほど抽象的な表現になっており、目標を読み上げただけでは何をしたら良いのか、何をしなければならないのか分からない。そこで、それぞれの目標がブレークダウンされ、全部で169のターゲットが掲げられている。
たとえば目標1「貧困をなくそう」は次の7つのターゲットに分解されている。
1.1 2030 年までに、現在 1 日 1.25 ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる。
1.2 2030 年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、すべての年齢の男性、女性、子どもの割合を半減させる。
1.3 各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、2030 年までに貧困層及び脆弱層に対し十分な保護を達成する。
1.4 2030 年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、すべての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する。
1.5 2030 年までに、貧困層や脆弱な状況にある人々の強靱性(レジリエンス)を構築し、気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的ショックや災害に暴露や脆弱性を軽減する。
1.a あらゆる次元での貧困を終わらせるための計画や政策を実施するべく、後発開発途上国をはじめとする開発途上国に対して適切かつ予測可能な手段を講じるため、開発協力の強化などを通じて、さまざまな供給源からの相当量の資源の動員を確保する。
1.b 貧困撲滅のための行動への投資拡大を支援するため、国、地域及び国際レベルで、貧困層やジェンダーに配慮した開発戦略に基づいた適正な政策的枠組みを構築する。
(外務省仮訳「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」より //www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf)
2006年、当時の国連事務総長であるアナン氏が金融業界に向け、責任投資原則(PRI)を提唱したことは今やよく知られている。
1.私たちは投資分析と意志決定のプロセスにESGの課題を組み込みます。
2.私たちは活動的な(株式)所有者になり、(株式の)所有方針と(株式の)所有慣習にESG問題を組み入れます。
3.私たちは、投資対象の主体に対してESGの課題について適切な開示を求めます。
4.私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるように働きかけを行います。
5.私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します。
6.私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します。” (「責任投資原則」より)
ここで提唱されたのは、機関投資家(大規模な投資を行う企業・金融機関などの投資家)が投資をする際に、ESG[環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)]課題を反映させることである。つまり、投資家は企業への投資をする際に、その会社の財務情報だけを見るのではなく、環境や社会への責任を果たしているかどうかを重視すべきだという提言が国連によってされたのである。
わが国では日本では、2010年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名した。日本企業は世界最大級の機関投資家から、汚染物質の排出状況や商品の安全性、供給先の選定基準や従業員の労働環境等々という、ESGにもとづく非財務情報の開示を求められるようになった。SDGsはいま日本企業にとって、ESGを考える上での大きな指標になっているということができる。(以下次回)

若杉敬明

皆がバフェットの言うことを実践したならば

偉大な投資家ウォーレン・バフェットに資産運用のアドバイスを聞くと、90パーセントをS&P500(上場大型株500銘柄株価指数)と連動する投資信託で、残りは短期国債で良いと言う。今なら、低コストと流動性の点から、S&P500のETF(上場投資信託)を買っておけということになろう。では、もし多くの投資家がこういったETFによる運用を行うと、ガバナンスに重要な議決権にどのような影響がでるのだろうか。

近代ポートフォリオ理論の教える最適投資は、個別銘柄ではなく、「マーケット・ポートフォリオ(全てのリスク資産の時価総額加重平均ポートフォリオ)を持て」であるから、バフェット方式は理論的にもほぼ支持される。それだけではなく、現実にS&P500を凌駕するパファーマンスを中長期的に維持することは非常に困難なことが知られている。

ETFは我が国でも急速に普及している。ネット証券などでは、日経平均株価の騰落率の2倍として計算された指数に連動するレバレッジ型ETFが、日間どころではなく月間で売買代金ランキングトップを維持するまでになっている。いま、日経225に連動するETFを例に取ると、機関投資家は日経225銘柄の現物を購入して、日経225の動きを複製し、それをETFとして投資家に売ることができる。(実際には全銘柄を購入しなくても十分複製可能)この場合、機関投資家が議決権を持つことになるので、機関投資家のスチュワードシップが問題となる。一方、先に述べたレバレッジ型ETFは合成的であり、現物ではなく先物やデリバティブを組み合わせて株価指数自体とか、指数の逆の動きや増幅された動きを複製する。この場合、当然、のことながら議決権は誰も持たない。新たに、議決権を持たないプレーヤーが株価形成に参加する問題を考える必要がでてくるが、これは別の機会に議論したい。

現物複製型のETFのスチュワードシップが重要であった。機関投資家は、投資先企業とその事業環境を深く理解した上で、投資先企業との対話等により、その企業の持続的成長と顧客の利益を両立させることが必要となる。S&P500や日経225は大型銘柄であり情報量が多い上、こういったETFは基本的に銘柄の入れ替えは少なく、長期的保有となる。とはいえ、保有する現物銘柄企業との建設的な対話を相当数こなさなければならない勘定となる。しかし、ETFは低コストが重要な特徴であり、信託収入はごく低く、スチュワードシップに配分できる資源には限界がある。

さらに、全世界に投資できることで有名なバンガード社のトータル・ワールド・ストックETFにいたっては855銘柄、50ヶ国にわたるポートフォリオである(2019年7月1日現在)。全銘柄・全世界での十分な調査と対話が可能だとは思えないし、きめ細かい議決権行使もできないだろう。ましてや、世界的にみると、ETF機関投資家は、バンガード、ブラックロック、ステートストリートの3社寡占状況である。各社の顧客数は膨大で多様であるから、顧客利益の追求は容易ではない。最近では、ESG(環境・社会・ガバナンス)やサステイナビリティーまで考慮しろという要請が加わり、問題をさらに複雑化させている

今、できることは何だろうか。株主総会を資本主義的な金銭投票だと考えれば、機関投資家の寡占化は間接資本主義投票の世界という解釈が可能となる。投資家は売買によって、自由に機関投資家を選択し、選択した機関投資家を代表者として、ETFを保有する間、自らの議決権行使を信託しガバナンスを委託することを通じて間接的に経営参加をし、意思の反映・実現を図るわけである。となれば、さしずめ機関投資家は政党であり、ETFは代議士となろう。当然、政党(機関投資家)の公約やマニフェストとその実現の検証が重要となる。したがって、何にもまして、機関投資家の議決権行使に関するポリシーの透明性と、顧客利益向上の検証手段の充実が課題となる。

大林 守